7月21日 能尚会本公演

やっぱり、前の方の正面席っていいな。

今回は2列6番目で、指定席。

去年は自由席だったから、開場時間前に来て並んだけれど、

今回は朝に用事を済ませて余裕を持って来られたから、

来年も特等指定席で観よう。

それにしても暑くて銀座の大通りの歩行者天国

カンカン照りで、ほとんど人がいなかった。

去年も真夏で、公演が終わってGINZASIXを出ると

土砂降りの雨!

急遽、1階で傘を買ったのを覚えている。

観世能楽堂に来る以外は用事がないGINZASIXだから、

せっかくだし、GINZASIXっぽいお菓子を買って、

公演の合間に食べよう。

チェックしていた末広庵の“生大師祈願餅”って、

申し訳ないけれど可愛くないネーミングの羽二重餅と、

ばら売りしていた栗饅頭を買って、準備万端で観世能楽堂へ。

人いっぱい。

盛況だー。

能楽堂の中は飲食禁止だから、

お手洗いと水分補給を済ませて着席。

実は昨日からお腹の調子が悪くて、

公演中にギュルギュル〜ってなったら

せっかくの前方の席が仇になっちゃうから、

どうかお腹が痛くなりませんようにって祈っていたら、

「邯鄲」が始まった。

去年は人間国宝の大槻文蔵さんの「邯鄲」を

宝生能楽堂の脇正面後ろの方で初めて観て、

その時は夢と現実の交錯が、

鼓と笛と地謡と、シンプルなセットで

ここまで表現出来るんだってびっくりして、

不思議の国のアリスみたいだなぁって思った。

今回、2列目の正面席、間近で見る「邯鄲」。

頭に浮かんでくることが前回と全く違って、

これは事前講座を受けた影響もあるんだけど、

治世50年が過ぎ、千代に八千代にますます栄あることを

臣下に言祝がれながら、「引き立て大宮」の中で

王となった盧生が舞う、

この場面が本当に感慨深かった。

豊臣秀吉が2番目によく舞った能が「邯鄲」。

この世は“夢”だと悟った盧生と、

「露と落ち露と消えゆく我が身かな 浪速のことも夢のまた夢」と

辞世の句を詠んだ秀吉。

盧生が秀吉に見えて、

引き立て大宮が大坂城で、

足軽から関白まで昇りつめた秀吉は

どんな思いで舞っているんだろうか。

引き立て大宮が福原だとしたら、

清盛はどんな思いで平家全盛期を振り返るんだろうか。

そして引き立て大宮が法住寺だとしたら、

後白河法皇はどんな思いで動乱の平安末期を

思い返すんだろうか。

儚い人生の、一瞬の天下でしかないけれど、

「引き立て大宮」の中で人生を顧みる時、

いったいそこにたどり着くまで彼らはどんな苦労をしたんだろうかって、

そんな事を思い出すと止まらなくなって、

私には想像が及ばないけれど、

きっと頂点を極めた人にしか見えない景色が

引き立て大宮の中からは見えるんだろう。

しみじみきてしまって思いがけず涙が出てびっくりした。

ところで、去年の銕仙会の講座で、

「邯鄲」には「飛込み」をする能楽師がいるって聞いた。

今回はその「飛込み」ってあるのか気になっていたけれど、

それらしき場面はなかった。

最後、夢から現実に切り替わる場面!

盧生が引き立て大宮の中で勢いよく倒れ込んで

はい!現実に戻ってきました!

緊張した。

でもばっちり決まっていた。

ボサボサの盧生の髪の毛も、

寝起きっぽくて、いい感じだ。

素晴らしかったー。

拍手も鳴りやまず。

私のお腹も問題なし、最高。

そしてスッと自然に狂言が始まった。

うーん、やっぱり狂言は見ないって人が少なからずいるのかなぁ。

同じ列の人で、狂言の間は戻ってこない人がいて、

まぁ一斉に休憩に入るとお手洗いも混むし、

能自体が長時間だから、長めに休憩を取りたい気持ちも分かるけど。

今回は「謀生種(ほうじょうのたね)」。

ほら吹きの腕競べ。

日本昔話とか、ヨーロッパの中世のおとぎ話とかに

よくありそうな話で、

オチによって話の方向性が変わってくる。

今回は真剣に「ほら吹き」の腕をあげたいと

願う真摯な青年を嘲笑って終わり。

よく考えなよ、そんな“ほら吹き上達の種”なんて

あるわけないじゃない、っていう感じで、

一緒に笑っている私も、

冷静になれない時、コロっと騙されて

変な宗教やスピリチュアルを大真面目に信じて、

“カルマ”や“本当の自分”なんて追い求めることがあるかもしれない。

後者のスピリチュアルには実際に夢中になっていたし、

何かあれば“本当の自分と繋がる”って

混迷に元になるキーワードが出てきて、でもいい勉強になった。

スピリチュアルは、そこから抜け出すことが成長の証だと思う。

狂言からも、本編とは関係のない色々なことが頭を過ぎって、

鑑賞中に意識が色々に飛ぶことが果たしていいのか悪いのか不明。

そして休憩。

買っておいた末広庵の栗饅頭を能楽堂の外で食べる。

休憩開始直後は行列のお手洗いも、

ゆっくり栗饅頭を食べてボーっとしていたら、

スッと並ばずに入れた。

仕舞「松浦佐用姫」。

この時間、お腹が急に危なくなってきて、

さっきの栗饅頭で刺激されたのか、

あれ、もしかして途中「すみません…」と腰を低くして、

お手洗いに駆け込むシミュレーション通りになっちゃう!?

…って悪い想像で頭がいっぱいになっていて、

観世清和さんの仕舞に全く集中できなかった。

そして、ラスト「石橋」!

お腹、心配だけれど、治まってきた。

武田崇史さんが赤獅子で、“披き”の能だから、

地謡の方も、太鼓・鼓の方も、全員衣装がグレードアップ。

なんか私もドキドキしてくる。

紅白の牡丹がセットされて、ここで

2頭の獅子が跳ねるのか〜。

まず僧侶が出てきて、

石橋を渡るのはお待ちなさいよって止められて、

そして間狂言が登場。

この登場のシーンが、なんか味があっていいなぁ。

渋い。

橋掛かりからボソボソ唄いながら出てくる。

なんとなく、人生紆余曲折あって、

流浪しているお爺さんみたいな貫禄があった。

そして!

まず白獅子の胸から下の部分が、そっと幕があがって見えた!

ああ〜獅子が来る!

まず白獅子が出てきて、その後の赤獅子の舞が、

白とは対照的にキレッキレ。

めちゃくちゃ力強いし、激しいし

牡丹の露を掃っているような仕草、

ハハーって畏まっているような動き、

獅子の威厳を示しているように見えたけれど

もう勢いが止まらない。

舞台中央の紅白牡丹の台に乗って

飛んだり跳ねたりするのかと思っていたけれど、

そこまで台を使うことはなかったなぁ。

前にNHKで観たものは、

かなり台の上で飛び跳ねていたから、

流派の違い?

それとも小書きが異なるのかな?

赤獅子は子獅子で怖いもの知らずな感じがした。

赤白ともに装束がキラキラで、

本当に百獣の王に相応しい輝き。

そして今回は笛・鼓が超盛り上がっていた!

あんなに力強い笛と鼓の競演は初めて聞いた。

あの「イヨーッ!!」の声でめちゃくちゃ気分が高揚する。

もうね、目がどこからも離せなくて、

終わって欲しくなかった。

NHKで観たときは、「石橋」に興味が湧かなかったけれど、

今回は間近でこの迫力!

公演の写真は撮影出来ないから、

ロビーに飾ってあった赤獅子の写真。

本当、来て良かった。

そしていい席で良かった。

お腹も持ち堪えてくれた。

今年の能尚会も終わってしまった。

来年は「砧」と「船弁慶」。

また義経かー。

義経&弁慶、好きじゃないんだけど、

でも平知盛さんの雄姿を見るために、

来年も能尚会、楽しみに待っていよう。

家について、末広庵の

“生大師祈願餅”を食べた。

信玄餅に似ているかなぁ?

黄粉たっぷりだから、残ったら

ご飯まぶして食べようって考えて、

今回の能尚会の感想は終わり。